大和建造に学ぶプロジェクト管理

この年末年始は以前読んで気になっていた「戦艦大和誕生」を読み直した。
ついでに類書も読んでプロジェクト管理の参考にしようと思った。

大和の建造については案外書籍がある。
今回は以下の本を読んだ。

 戦艦大和開発物語
 戦艦大和の建造
 戦艦大和誕生
 戦艦大和設計と建造
 戦艦大和のすべて

この他にも「戦艦武蔵建造記録 」というのが詳しいらしいが手に入らなかった

この中でも「戦艦大和誕生」はプロジェクト管理の面から参考になることが沢山ある。

大和建造でもっとも興味をそそられるのは、非常に大きなリスクや制約を抱えるプロジェクトでありながら、驚異的な工数で開発され、しかも予定納期を半年も繰り上げての建造であったことである。

大和の半分の重量の陸奥(22、183トン)とほぼ同じ工数で建造されており、かつ同時期に建造された2号艦の武蔵の半分の工数でできあがった。
これはすごいことである。
1号艦の大和が先行していた分、その建造ノウハウを武蔵に取り込んでいたので、武蔵が大和の半分の工数なら理解出来るが、事実はまったく逆である。
大和型の戦艦はその当時かつてない規模で、かつ複雑な船になるのことが予めわかっていた。
試行錯誤も沢山あったと思うが、それでも驚くほど少ない工数で実現している。
また武蔵の工数は見積もりとほぼ同じで決して工数がふくらんだわけではなかった。

当時の造船官も大和の開発工数を驚異的な少なさと捉えていた。
「ずばぬけて優秀な技術者が」緻密な工事計画のもと実現できたものと評価している。

呉の大和ミュージアムに行くと、大和建造時に行われた様々な工夫が戦後の造船業を支えていたと伝えている。
それほど傑出した開発技術と管理技術が使われていたのである。

このようなことがありこの年末大和の建造に関わる書籍をまとめて読んだ。

戦艦大和誕生」はその「ずばぬけた技術者」と言われた西島技術大佐の回顧録をベースに組みたてられている。
近代日本の軍艦建造の歴史が語られており、その集大成として大和の建造に結実したことが書かれてる。

用兵側の過剰な要求とそれに何とか応えようとする技術者。その克服のために最新技術を導入しようとするもの、あくまでも実績のある技術にベースをおくもの それらの葛藤。
その中で最新技術の未熟な適用による問題の発生など。

正に現在のシステム開発が抱える問題の一端がうかがえる。

造船業も長い間科学的な管理方法はなじまないと考えられていた。

 ・多種多様な設備
 ・1品毎のオーダーメード
 ・工事量のばらつきにより、過去の工事量のデータが取りにくい。
 ・基本設計の段階で生産能力に応じた正確な工事量が把握しにくい。
 〜〜

このようなことはソフトウェア業界でもよく見られる。

大和建造には様々な工夫が行われたようである。

 ブロック建造法
 構造的な部分以外での溶接の多用
 実物大模型の採用
 早期偽装の本格導入
 
管理システムの方策としては

 材料統制
 器具統制
 工数統制
 工数管理

特に大和の場合は機密の中でも最高に厳しい「軍機」が適用されたので、情報が極端に制限されていた。
従って、設計に当たっても自分の担当以外はほとんど知ることができず、その中で自分の割り当てられた部分を設計していたようである。
私は「ものづくり」の中でソフトウェア開発の最大の特徴は開発しているものが見えにくいという特性ではないかと考えている。
大和の設計も正に見えにくい中で行われた。
そこが非常に興味をそそられる部分である。

しかし、決定的に違うのは船は徐々に形作られているので、細かな情報はわからなくても全体像は見えてくる。
造船行はウォーターフォール開発であるから設計時にはやはり見えない部分が沢山あるが、造艦してくると形が見えてくる。
従って設計時のミスは造艦時に修正しながら進めていくと考えられるが、情報が制限されていても形が見えることで「類推」ができるようになると考えられる。

ソフトウェア開発にこの「類推」を当てはめるとヒントになるような気がしている。

このように大和建造をソフトウェア開発と重ね合わせて考えると、プロジェクト管理に応用できる新たな側面が見えてくるし、アイディアがわいてくる。

ソフトウェア業界は自動車業界や建設業のパターンなど他の業界に学ぶことが沢山あるが、造船業もその一つだと考える。