今年一番刺激的だった本は

ミンスキー博士の脳の探検」
20年ほど前にミンスキー氏の「心の社会」を読んでから続編を期待していた。

心の社会も刺激的だったが、今回の脳の探検はもっと刺激的だった。

私がこの2冊の本を好きなのは難しい数式や理論ではなく、考え方として図や平易な言葉で表現している点にある。
ただ、だからといってこの2冊の本が理解しやすい本というわけではない。
どちらかというと難解な部類だと思う。

何しろ以下のような極めて説明の難しいものを論理的なメカニズムとして説明しようとしている。

 「恋をする」 「愛着と目標」「意識」「常識」「思考」〜〜

どれを取っても説明が困難なものである。
ましてや論理的に説明しようという気にもならないものである。

これを神秘的なものとしてではなく論理的なからくりとして説明しようとしているところに興味が引かれる。

私もこの歳になると仕事の内容は問題解決に類することが多くなり、問題に対してどのようにアプローチすべきなのかということに悩まされることが多い。
この本の中には我々が日常接する生活の場面を例に出し、その時脳の中で何が行われているのかを説明している。
そこでの思考方法やその対象に対するアプローチが面白い。

今から20年ほど前「心の社会」を出版した頃にミンスキー氏が新宿で講演を行った。
その講演の内容は難しかったが、本の中で伝えたいことのいくつかは掴むことができた。

当時はコネクショニズムの考え方がいろいろ展開していたときでもあり、従来のAIのアプローチを超えた新しい領域が広がりそうな期待があった。そして「心の社会」はその先につながっていくようなものと思っていた。

10年か15年くらい前にNHKミンスキー氏の特集があった。
3回のインタビュー番組だが、その中ではじめてミンスキー氏の根底にある考え方が理解出来た。

その内容は正直言って非常に違和感のあるものだった。
今となっては正確に覚えていないが「脳も含めて人間を機械で置き換えることで人間の寿命を延ばすことも可能だ」というようなことであった。

足や手、臓器を機械に置き換えるところまでは理解ができるが、脳を機械に置き換えて生きているといえるのか という部分が非常に違和感を覚えたところである。

私の理解が正確ではないかもしれないが、氏の一貫した考え方の中には「生物も機械と同じである」という信念のようなものを番組を見ていて感じた。

なぜこんなことを書いたかというと「脳の探検」で述べられていること一つ一つがとても難しいことを対象としており、これらを長年研究してこられる情熱がどこからくるのかに興味があったからである。

多分生物と機械は別のものだと考えると、「意志」や「思考」などのようなとても扱いにこまるものを対象としないのではないかと思う。しかし、それを避けてはいつまでたっても脳のメカニズムは説明できない。

この極めて困難な対象に挑んでいるところが氏のユニークなところである。

私は「生物と機械は違うだろう」と感覚的に考えてしまうが、このとても難しい問題に対する氏のアプローチはとても参考になる。

この本は今年一番の知的好奇心をくすぐった一冊である。